ベルギー西部、エノー州のラ・ルヴィエールからル・ルーにかけてのサントル運河(中央運河)には、19世紀末から20世紀初頭に建設された4基の水圧式のボートリフトがあります。高低差のある運河で船を通過させるためのこれらのボートリフトは、現在も良好に稼働できる状態にあり、19世紀後半の産業景観の優れた例証として、運河や周辺の関連した建造物も含め1998年にユネスコの世界遺産の登録されました。現在は、観光名所になっており、船に乗ったままボートリフトを体験することができます。
サントル運河は、ムーズ川(マース川)とエスコー川(スヘルデ川)を繋ぎ、ドイツからフランスを直通させるために作られた全長約21kmの運河です。サントル運河の途中、ラ・ルヴィエールからル・ルーにかけての7kmの間には66mの高低差があり、船を通過させるにはその高低差を解消する必要がありました。土地に高低差がある運河で船を通過させるには、閘門方式(水門の開閉により水位を調節)、インクライン方式(船を台車に載せて傾斜のあるレイルで運ぶ)、ボートリフト方式(船用のエレベーター)などの仕組みが利用されています。サントル運河では、船そのものを昇降させるボートリフト方式が採用され、1888年から1917年にかけてイギリス人土木技師エドウィン・クラークの設計により4基のボートリフトが建設され、66mの高低差を見事に解消しました。
ボートリフトは、19世紀の運河建設と水工学技術の発展により、ベルギーをはじめ、イギリスやドイツ、フランスなどでも活用されていました。19世紀末から20世紀初頭にかけて建設された水力式ボートリフト8基のうち、現在も元の稼働状態で残っているのは、サントル運河の4基のみとなっています。
サントル運河の4基のボートリフトは、2002年にすぐ近くを並行する新運河にストレピ・ティウのボートリフトが完成したことにより貨物船の移動の役目を終えました。現在は、観光スポットとして生まれ変わっており、建物の見学や船が持ち上げられている様子を側から見ることができます。4基のボートリフトは、東から順に番号が振られており、それぞれ約17mの高さを昇降します。船が大きな鉄のリフトで持ち上げられていく様子は圧巻です。第3ボートリフトでは、機械室を見学することができ、水圧のみで昇降させるメカニズムを知ることができます。第2、第3のボートリフトは比較的近い距離に位置しており、徒歩で気軽に見て回ることができます。運河沿いには、遊歩道が敷かれており、散策やジョギング、サイクリングを楽しむ地元の人々の姿もよく見られます。時間に余裕があれば、ハイキングやサイクリングでそれぞれのボートリフトを巡るのもよいでしょう。運河上には合計10の橋が架かっており、その内いくつかは旋回橋や跳ね橋があります。タイミングやよければ、船が通過する際に、係りの人が橋を手動で動かす様子を見ることができます。
サントル運河を訪れたらぜひ楽しみたいのが運河クルーズ。運河クルーズツアーでの最大の楽しみは、もちろん船に乗ったままボートリフトを体験すること。通常ボートに乗っていると水平面を走るのみですが、ここではボートに乗ったまま上昇していくという不思議な気分を味わえ、間近でボートリフトの仕組みを観察できるまたと無いチャンス。その後も、のどかな風景を眺めながら、途中、運河に設けられた水門や可動式の橋も通過していきます。運河周辺の散策では見られない水上からならではの新たな景色を発見することができるでしょう。このツアーでは、観光用のミニトレインで運河沿いを移動し、第3ボートリフトの機械室にも立ち寄ります。
また、第1ボートリフト近くの「Cantine des Italiens」では電気ボートをレンタルすることができ、のんびりと自分たちのペースで運河クルーズを楽しむことができます。
4基のボートリフトは、最大300トンの船舶を移動させることができましたが、20世紀後半には、貨物船の取扱量は増加し、大型の貨物船にも対応する必要に迫られました。そこで、既存の運河と並行するように北側により広い運河が建設され、2002年に巨大なストレピ・ティウのボートリフトが新たに完成しました。ストレピ・ティウのボートリフトは、最大で1350トンの船を移動でき、さらにこれまで4基のリフトで平均17mずつ段階的に66mの高低差を移動していたのに対して、一気に73.15mを昇降させることができるようになりました。
ストレピ・ティウのボートリフトは、貨物船の移動だけでなく、新たな観光スポットとしても注目されており、建物内部の機械室や博物館を訪れたり、73.15mを昇降するボートリフトを体験できるクルーズツアーなども合わせて楽しむことができます。世界遺産の4基のボートリフトも目の前で見るとかなりの迫力がありますが、ストレピ・ティウのボートリフトは比べものにならない巨大さ。サントル運河を訪れる際は、新旧のボートリフトの違いを比べてみのも面白いでしょう。
サントル運河のあるワロン地方は、19世紀から20世紀にかけてヨーロッパ有数の石炭の生産地として栄え、最盛期には数百もの炭鉱施設がありました。ラ・ルヴィエールの郊外には、ワロン地方で最も古い炭鉱の一つで、1685年から1973年に閉鎖するまで3世紀に渡り操業されていたボワ・デュ・リュック(Bois-du-Luc)があります。ここは、炭鉱の施設の他、労働者の住宅、ショップ、病院、教会、ホール、学校、図書館など備わった典型的な産業村でした。現在も良好な状態で保存されており、エノー州のグラン・オルニュ、ボワ・デュ・カジエとリエージュ州のブレニー・ミーヌと共に「ワロン地方の主要な鉱山遺跡群」の一部として世界遺産に登録されています。博物館として建物の一部が一般公開されており、炭鉱産業の歴史や労働者たちの当時の生活が垣間見られる興味深い展示が見られます。サントル運河のボートリフトからも2kmほどと近く、合わせて訪れておきたいスポットです。
ベルギーには、四季があり、観光のベストシーズンは、最も過ごしやすい夏の6月~8月です。夏季は日照時間が長く、夜10時頃まで明るいので観光に十分時間を取ることができます。一方、冬は日照時間が短くなり、厳しい寒さとなるので防寒対策は万全に。
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【ブリュッセル空港からラ・ルヴィエール】
<電車>
ラ・ルヴィエール中央駅下車
所要時間:約1時間15分
30番バスで第1~第4ボートリフトの最寄りにアクセス可
・第1ボートリフト
HOUDENG-GOEGNIES Ascenseur下車→徒歩15分
・第2ボートリフト
HOUDENG-AIMERIES Rue Monoyer下車→徒歩10分
・第3ボートリフト
STREPY-BRACQUEGNIES Route de Thieu下車→徒歩7分
・第4ボートリフト
THIEU Traversée à Niveau下車→徒歩4分
(2019年3月現在)